00 / ARCHIVE DESCRIPTION

記録物品について

本転記は、リュカ郡立魔術学院・教務記録室に残された初等風象術式訓練事故検分録をもとにする。

原記録には、事故当日の課題票、使用媒介の検分控え、術者本人への聞き取り、医務室での確認、導師補佐の所見が綴じられていた。

原記録では、術者の構築誤差だけでは説明しきれない手元側の損傷が確認されている。事故後の検分では、使用媒介の状態と貸出前点検の記入内容があわせて確認された。

01 / RECORD SHEET

記録表

RECORD SHEET

記録表
記録機関
リュカ郡立魔術学院・教務記録室
検分書記
エルネス・カイル
風象導師補佐
セナ・リグル
医務確認
リュカ郡立魔術学院・医務室
発生場所
リュカ郡立魔術学院・初等課程 第三風象訓練室
原記録区分
初等風象術式訓練事故検分録
後年転記
北リュカ研究塔・事故記録係 旧整理束

02 / INCIDENT SUMMARY

事故概要

本記録は、リュカ郡立魔術学院・初等課程における風象訓練中に発生した、媒介逆流による神経焼損例である。

対象課題は、前方に吊るした布標識へ短い風圧を当て、標識を一度だけ揺らす初等課題であった。

事故時、術者は貸出用の小型導風杖を右手で保持し、導師補佐の合図に合わせて発動を試みた。標識はわずかに揺れたが、課題で求められた風圧には達しなかった。

発動直後、術者は右手の掌から手首内側にかけて線状の熱感を訴え、導風杖を取り落とした。第三風象訓練室内の安全符に異常はなく、周囲の訓練者に損傷は確認されていない。

03 / TRAINING SHEET

訓練課題

当日の課題票には、風圧の向き、出力の短さ、標識接触後の消散確認が記されている。

課題

初等風圧術式の方向指定と出力停止

術式

短圧風式

属性

形式

直線 / 短圧

対象

吊布標識

媒介

貸出用小型導風杖

課題票所見

本課題で求められたのは、強い突風の発生ではなく、短く押してすぐ止める出力調整であった。

布標識を大きく揺らすことは加点対象ではない。風圧の向きが標識へ届き、術者の手元に反動を残さず消散することを確認対象とする。

04 / SITE AND MEDIUM

訓練場と使用媒介

事故が発生した第三風象訓練室には、床面に白線で引かれた立位円、前方二歩の位置に吊布標識、側面に簡易遮風符が設置されていた。

区画

第三風象訓練室

安全術式

立位円 / 簡易遮風符 / 標識背面の受風布

標的

吊布標識

立会

初等風象課程 導師補佐

使用媒介は、槭材を芯材とする貸出用小型導風杖であった。

事故後の検分では、杖先端から掌側へ向かう細い亀裂が確認された。初見では表面の擦り傷と記入されていたが、斜めから光を当てた際、亀裂が刻印線の下へ沈み、先端側の流路を横切っていることが確認された。

貸出前点検の控えには異常なしと記入されている。ただし、同控えの筆圧は薄く、杖先端の確認欄に訂正跡がある。

05 / ACCOUNT AND INTERVIEW

事故時報告・聞き取り控え

以下は、事故直後の報告と、術者本人への聞き取りを合わせて整理した控えである。

報告 01

発動前、術者は布標識の中央を対象として指定していた。

報告 02

詠唱後半で、導風杖の先端に薄い鳴りが生じた。

報告 03

標識はわずかに揺れたが、課題で求められた風圧には達していない。

報告 04

術者は発動直後に導風杖を取り落とし、右手を押さえた。

報告 05

導師補佐は、術者の肩や姿勢に大きな崩れはなかったと記録している。

06 / MEDIUM INSPECTION

媒介検分

事故後、導風杖は訓練室内で回収され、教務記録室にて検分された。

検分対象

貸出用小型導風杖 三号棚 風象初等用

外観

先端部に細い亀裂。杖身中央に目立つ損傷なし。

刻印線

先端側の刻印線二箇所に断絶あり。

芯材

亀裂下に黒変あり。焼損というより、内側から焦げた痕に近い。

握り部

術者の掌が当たる側に、細い熱変色あり。

検分書記所見

亀裂は、通常の持ち替えでは見落とし得る細さである。初見では擦り傷と記入されたが、斜め光で確認した際、亀裂が刻印線の下へ沈み、先端側の流路を断っていることが確認された。

発動時に魔力流が通る刻印線を横切っているため、使用可能な状態とは認められない。

掌側の熱変色は、外部の火熱によるものではない。杖内部を通った出力が、掌側へ戻った痕跡として記録する。

07 / INJURY REPORT

損傷確認

医務室で確認された損傷は以下の通りである。

損傷 01

右手掌中央から手首内側にかけて、線状の赤み。

損傷 02

右手薬指と小指に軽いしびれ。

損傷 03

握力低下。強く握ると手首内側に痛み。

損傷 04

開放創なし。出血なし。

医務室所見

皮膚表面の損傷は軽度である。

ただし、痛みの走行は皮膚表面の赤みと一致しない。手首内側の痛みは表皮の熱傷痕より深く、媒介を通じた逆流が感覚神経に沿って残ったものとして経過観察とする。

本件は、表皮熱傷ではなく神経焼損疑いとして教務記録室へ回付。

当日は右手を用いる発動訓練を停止。翌朝、右手薬指と小指のしびれを再確認すること。しびれが残る場合、右手を用いる発動訓練を七日間停止する。

08 / FINDINGS

検分所見

本件は、術者の対象指定誤りを主因とする事故ではない。

術者の象意構築には粗さが認められるものの、発動対象は吊布標識に向けられており、出力位置の大幅な逸脱は確認されていない。

一方で、使用媒介には先端側の亀裂と刻印線の断絶が確認された。発動時、導風杖の先端側へ抜けるはずの流れが、破損部で途切れ、握り部側へ戻った疑いがある。

象意

風圧の象意は保持されている。標識への対象指定も確認できる。

出力

標識側への風圧は弱く、課題達成には至らず。

媒介

先端側刻印線に断絶。杖内部の流路に異常あり。

損傷

右掌から手首内側にかけて、線状熱感と神経痛。

判定

媒介破損に起因する逆流事故として記録。

風象導師補佐所見

短圧風式は、出力が小さいため軽く見られやすい。

しかし、出力が小さいことと、媒介内を通る流れが安全であることは同じではない。

欠けた媒介を通せば、弱い風でも術者の手へ戻る。訓練用媒介であっても、貸出前点検を省略してよい理由にはならない。

09 / MEASURES

処置記録

処置 01

術者を医務室へ移動。右手掌から手首内側の熱感、しびれ、握力を確認。

処置 02

当日の右手使用訓練を停止。翌朝までしびれが残る場合、右手を用いる発動訓練を七日間停止。

処置 03

使用媒介を教務記録室へ回収。貸出棚へ戻さず封止。

処置 04

同棚の小型導風杖を全数点検。点検完了まで同型媒介の貸出を停止。

処置 05

貸出前点検欄に、刻印線の連続確認を別項目として追加。

10 / SCRIBE NOTE

検分書記の末尾注記

ARCHIVE ADDENDUM

保管時追記

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