00 / ARCHIVE DESCRIPTION
記録物品について
本記録物品は、リュカ市東門外周に置かれた第三結界塔の朝番点検紙をもとにした転記である。
原綴じには、点検表、媒介棚の確認記録、保守見習いによる欄外質問、主任保守術士の返答が含まれていた。
第三結界塔は、東門周辺に設置された公共術式設備である。門外から吹き込む強い風、軽い飛来物、閉門後の門柵越え、塔内に残る余剰魔力流を扱う。
本資料に記された結界は、都市全域を覆う大規模防壁ではない。東門周辺の通行と警戒を補助するため、門前の環境を小さく整える局所設備である。
01 / RECORD SHEET
記録表
RECORD SHEET
記録表- 記録機関
- リュカ市東門結界塔・管理房
- 主任保守術士
- カナート・ヴェル
- 保守見習い
- ネル・ソーラ
- 使用場所
- リュカ市東門外周・第三結界塔
- 原記録区分
- 公共術式 朝番点検紙 / 欄外問答 / 媒介棚記録
- 保管写し
- 北リュカ研究塔・公共術式資料係
02 / START CHECK
点検開始前確認
門番詰所へ朝番点検開始を伝える
東門の通行列が塔基部に寄っていないか見る
外環石柱の周囲に荷車、家畜、露店荷が置かれていないか見る
門番詰所側で鳴子を一時停止しているか確認する
塔芯導石に触れる前に、前夜の排出記録を読む
上記確認が終わるまで、結界塔の試験起動を行わないこと。
03 / TARGET FUNCTIONS
点検対象
通常点検では以下の事項を確認すること。
一
風圧緩和
門外から門前広場へ吹き込む突風の勢いを弱める。
二
飛来物偏向
小石、木片、薄板などの軽い飛来物を、歩行線と荷車線から外す。
三
門柵越えの警戒伝達
閉門後、門柵を越える人影、獣、大型物の接触を門番詰所の鳴子へ伝える。
四
余剰魔力流排出
試験起動や夜間警戒のあと、塔芯導石に残った魔力流を空石槽へ抜く。
04 / INSPECTION
朝番点検表
ネル・ソーラ
カナート・ヴェル
朝番点検紙 裏面
点検 01
外環石柱
東門外周 第一石柱から第五石柱
割れ、傾き、刻線欠け、荷置きによる遮りを確認。
第一石柱、第二石柱、第四石柱、第五石柱に異常なし。
第三石柱の根元に濡れた藁屑あり。
第三石柱根元の藁屑を除去。
刻線欠けなし。
除去後、風圧緩和の試験反応あり。
会話記録:結界は壁なのか
ネル: 結界塔の結界って、壁みたいなものですか。
見えない壁で門を守っている、みたいな。
カナート: そう見えることもあるね。
ただ、東門の通常結界は壁ではないよ。
ネル: では、何をしているんですか。
カナート: 門前で起きる困りごとを、小さくしている。
強すぎる風は、門に届く前に勢いを落とす。
飛んできた木片は、人の歩く線から外す。
閉門後に門柵へ何かが触れれば、鳴子へ知らせる。
塔の中に残った魔力流は、空石槽へ抜く。
ネル: 何かを遮るわけじゃなくて、弱める、外す、知らせる、抜く、というものなんですね。
カナート: うん。今朝の点検なら、その覚え方でいい。
有事の結界や閉鎖用の門術式は別にある。
でも、ここは朝から人と荷が通る門だからね。
普段の結界を、閉鎖用と同じにしてはいけないよ。
ネル: いつもの門には、いつもの強さがあるんですね。
カナート: そう。守ることと塞ぐことは、似ているけれど同じではないよ。
点検 02
床石刻線
東門外側の床石刻線
門外から門前広場へ入る風の反応を確認。
第二刻線の上に砂溜まりあり。
刻線の欠けなし。
反応は通常よりわずかに鈍い。
砂を掃き出し、床石の水気を拭う。
媒介交換は行わず。
弱風試験、強風試験ともに反応あり。
会話記録:突風事故の後に強めるべきか
ネル: 昨日、東門前で荷車が横倒しになったと聞きました。
風圧緩和を強めた方がいいのではありませんか。
カナート: そう思う気持ちはわかるよ。
けれど、まず荷車が倒れた原因を分けよう。
ネル: 風だけではない、ということですか。
カナート: うん。
門番の記録では、昨日は雨上がりで轍が深かった。
荷車は片輪を取られて、積み荷も左へ寄っていた。
そこへ横風が当たった。
ネル: 風だけが原因というわけではないってことですね。
カナート: その通り。
術式だけで解決しようとすると、原因を見逃してしまう。
道が悪いなら道を直す。
積み荷が偏るなら荷扱いを直す。
風の記録が足りないなら、門番詰所に記録を増やしてもらう。
こういう考え方が大事なのさ。
ネル: 今日は結界の設定を変えないんですね。
カナート: そうだね。
朝番では床石の砂と轍を多めに見る。
昼番には風向きの記録を一回増やしてもらう。
明日も同じ場所で強い横風が出るなら、その時に風圧緩和の調整を考える。
って感じだね。
保守は、強くする仕事ではなく、合っているかを見る仕事だよ。
点検 03
飛来物偏向板
外環石柱内側 偏向板三枚
小石試験、木片試験、薄板試験を行う。
小石、木片は歩行線外へ偏向。
薄板は門前中央で落下。
異常なし。
薄板は濡れて重く、通常の軽飛来物扱いに入らない。
荷板、箱蓋、工具類は偏向対象に含めない。
点検 04
鳴子伝達線
塔内鳴子伝達線 / 門番詰所側の鳴子
塔内から警戒反応を一度送り、門番詰所の鳴子が鳴るか確認。
一回目、正常に鳴動。
二回目、正常に鳴動。
三回目、鳴動が遅れる。
塔内側に異常なし。
門番詰所側の鳴子紐が湿って重くなっていたため、詰所側で乾布拭き。
乾布拭き後、二回とも正常に鳴動。
会話記録:媒介をすぐ替えない理由
ネル: 鳴子が遅れたなら、青銅環を替えた方が早くありませんか。
カナート: 替えるのは簡単だね。
でも、原因が青銅環とは限らないよ。
ネル: 今回は青銅環ではない?
カナート: 塔内の反応は正常だった。
遅れたのは、門番詰所側の鳴子紐が湿って重くなっていたからだ。
ネル: 術式の発動が遅れたわけじゃなかったんですね。
カナート: そう。
ここで青銅環を替えると、記録には『媒介交換』と残る。
次の担当は、青銅環が悪かったのだと思う。
でも本当の原因の、湿った紐はそのまま残る。
ネル: 記録も間違うんですね。
カナート: 記録を間違えると後で困るからね。
だから、替えた物より、替えなかった理由を丁寧に残すんだ。
点検 05
塔芯導石
塔芯導石 上面 / 側面 / 下部逃がし口
熱、濁り、鳴り、触感の変化を確認。
上面に曇りなし。
側面の触感は平常。
下部逃がし口に軽い砂噛みあり。
逃がし口を乾布で清掃。
導石本体には手を入れず。
余剰魔力流排出試験に反応あり。
点検 06
空石槽
塔基部 空石槽
前夜分の排出跡、水入り、砂入り、蓋の歪みを確認。
槽底に細かな砂。
水入りなし。
蓋の歪みなし。
前夜分の排出跡は通常範囲。
槽底の砂を掃き出す。
蓋の合わせ目を拭う。
余剰魔力流が槽へ抜けない場合、鳴子の誤作動、門柱の微震、門前灯のちらつきとして出ることがある。
会話記録:空石槽へ抜くもの
ネル: 空石槽へ抜く余剰魔力流というのは、何が余っているんですか。
カナート: 塔が仕事をしたあとに残る反応だよ。
風を弱めたあと、飛来物を外したあと、鳴子へ知らせたあと、塔芯導石に少し残る。
ネル: 残ると危ないんですか。
カナート: 少しなら危なくない。
でも、逃がし口に砂が噛んでいると、残った反応が塔内に留まるんだ。
そして、留まった分は、別のところへ顔を出す。
ネル: 別のところ?
カナート: 鳴子が誰もいないのに鳴る。
門柱が小さく震える。
門前灯が一瞬ちらつく。
そういう形で出ることがある。
ネル: 捨てるためではなく、変なところへ出さないために抜くってことですね。
カナート: いい言い方だね。
空石槽は、ごみ箱よりも休ませ場所に近い。
ただし、砂はたまる。
だから朝番が掃く。
ネル: 最後は掃除になるんですね。
カナート: 公共術式の半分は掃除だよ。
点検 07
補助媒介棚
塔内補助媒介棚
予備青銅環、乾布、封蝋、交換紙、補修紐を確認。
予備青銅環 二個あり。
乾布 不足なし。
封蝋 欠けあり、使用可。
交換紙 四枚あり。
補修紐 一束あり。
異常なし。
媒介交換なし。
夕番で封蝋を一片補充すること。
05 / MEDIUM SHELF RECORD
媒介棚記録
なし
青銅環 一式
鳴子遅延の原因が門番詰所側の鳴子紐の湿りと判断されたため
乾布拭き後、鳴動正常
封蝋 一片
欠けあり、使用可だが残量少
夕番で追加
06 / END NOTE
朝番終了記録
終了
通常範囲
通常範囲
詰所側鳴子紐の乾布拭き後、通常範囲
空石槽清掃後、通常範囲
なし
封蝋 一片
済
風向き記録を一回追加
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