00 / ARCHIVE DESCRIPTION

記録物品について

本記録は、封印書《ヴォイド・エイドス》と称される異端研究書の抄写断片である。

原資料は黒布装の小型冊子として保管されている。表題は表紙には記されておらず、背表紙内側に貼付された古い整理紙片にのみ、《ヴォイド・エイドス》の名が残る。

紙面の多くは白化しており、通常の焼損、湿潤、虫損、削除痕とは一致しない。文字の欠落部には、墨の剥落ではなく、紙面そのものが薄くなったような変質が見られる。

本稿では、原資料全体ではなく、既存写しのうち閲覧可能と判断された断片のみを掲載する。本文中に、直接的な発動式、攻撃術式、召喚手順は確認されていない。

01 / RECORD SHEET

記録表

RECORD SHEET

記録表
記録機関
秘書院・異端記述審査係
整理者
北リュカ研究塔・封緘資料係
封緘確認
秘書院・術式封緘室
原資料所在
北リュカ研究塔・第七封緘架
原記録区分
異端研究書《ヴォイド・エイドス》抄写断片
保管写し
境界層アーカイブ・断章整理係

02 / SEALING CONDITION

封緘状態

原資料は、三重の紐留めと封蝋によって閉じられている。

外側の紐留めは比較的新しいが、内側二層の封緘は年代が異なる。いずれの封緘にも、開封痕と再封印痕が確認されている。

封蝋の一部には、通常の開封印ではなく、記号術式の未完成部に似た短い刻みが残る。ただし、当該刻みは術式として成立していない。

欠けを補うな。

空白を読むな。

声に戻すな。

この注意文の筆跡は、本文写しの筆跡とは一致しない。

03 / TRANSCRIBED FRAGMENT

《ヴォイド・エイドス》抄写断片

以下は、既存写しより採録された本文断片である。

欠字・空白・読解不能箇所は、原写しの状態を可能な限り保持している。 推定補完は行わない。

TRANSCRIBED FRAGMENT

第一断片

像は、名によって安定する。

名を得た像は、

術式に耐える。

ゆえに術者は、

火に火の名を与え、

水に水の名を与え、

声に声の名を与える。

しかし、

名は像を救うだけではない。

名は、像を閉じる。

TRANSCRIBED FRAGMENT

第二断片

名づけの遅延は、

発動遅延ではない。

それは、

発動以前の保持である。

火と呼ぶ前に、

はすでに揺れている。

水と呼ぶ前に、

沈みはすでに底を持つ。

声と呼ぶ前に、

喉はすでに返事をしている。

名を急ぐ者は、

始まりを見ない。

TRANSCRIBED FRAGMENT

第三断片

欠けた箇所を読むな。

欠けは、

失われた部分ではない。

欠けは、

■■■■■■■■

まだ閉じられていない輪郭である。

そこへ語を置くな。

そこへ声を戻すな。

そこへ術式を結ぶな。

TRANSCRIBED FRAGMENT

第四断片

空白を媒介とする場合、

術者は空白を見てはならない。

空白を見た時点で、

媒介は術者側へ移る。

媒介が術者側へ移った場合、

術式は対象を失う。

対象を失った術式は、

始まる前に残る。

TRANSCRIBED FRAGMENT

第五断片

戻せ。

火を火へ戻すな。

水を水へ戻すな。

声を声へ戻すな。

名を得る前へ戻せ。

ただし、

戻されたものを、

■■■■■■■■■■

以前の名で呼んではならない。

TRANSCRIBED FRAGMENT

第六断片

再び名づけるなら、

以前の名で呼ぶな。

燃えるものを火と呼ぶな。

流れるものを水と呼ぶな。

震えるものを声と呼ぶな。

名は、

二度目には、

像を殺す。

TRANSCRIBED FRAGMENT

第七断片

声に戻すな。

声に戻したものは、

術式ではなく、

記憶として残る。

記憶として残ったものは、

発動しない。

ただし、

消えもしない。

紙に残らぬものを、

無いものと呼ぶな。

無いと呼んだ時、

それは名を得る。

TRANSCRIBED FRAGMENT

第八断片

ここから先は、

写してはならない。

写せば、

語が残る。

語が残れば、

名が戻る。

名が戻れば、

■■■■■■■■

始まってしまう。

04 / COPYIST NOTE

抄写者注記

以下は、既存写しの末尾および紙背に残された抄写者注記である。

本文と同一筆跡ではあるが、筆圧、字間、改行の乱れが認められる。 注記は原資料本文ではなく、写し作業時の記録として扱う。

第一日

本文は短い。欠けも少ない。

なのに、行間だけが妙に広い。

余白というより、文字の方がそこを避けている気がする。

第二日

第三断片の空いた行に、語を入れかけた。

入れた瞬間、前後の文が別の意味に見えた。

消した。もう補わない。

第三日

「火」と写す前に、熱、揺れ、乾き、明るさが先に出た。

火と書けば済むはずなのに、どうしても一つに戻らない。

該当行は削った。

第四日

第五断片から先は読まない。少なくとも声には出さない。

読む前に喉が動く。

これは発声句ではない、と思う。

第八断片の後

文字のない紙葉が三枚続く。

白紙と記入しかけ、削除。

未記入と記入しかけ、削除。

欠落ではない。

ただし、読む箇所でもない。

ここで筆写を止める。

ARCHIVE ADDENDUM

保管時追記

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